蓮澍・海潮音科の卒林生が、自国で活躍している。今年の3月に卒林したタルクダール・オトシさんは、学林での学びをもとに出身国のバングラデシュで男女平等社会の実現のために尽力している。
バングラデシュでは、仏教徒の多くが上座部仏教を信仰。上座部仏教の家庭で育ったオトシさんは、仏教社会の不平等に疑問をもちます。上座部仏教の信者が目指す阿羅漢という最高の悟りの境地は、僧侶のみが至れる境地とされ、さらに、女性が阿羅漢になるのは難しく、女性が仏陀になるには、男性に生まれ変わる必要さえあるという言い伝えもあります。女性への差別は、 仏像に触れることや、僧侶の近くに座ることが禁じられていることにも見受けられます。
10代の頃、 立正佼成会に出会ったオトシさんは、その所依の経典の法華経にある、「誰もが仏になる可能性がある」との教えに感動し、学林では上座仏教と大乗仏教の共通性と相違をさらに探求。卒林研究では、「バングラデシュにおける女性の地位に関する上座部・大乗仏教の比較分析」と題し、取り組みました。
研究ではまず、バングラデシュの女性たちが直面している「信教の自由の欠如」、「社会におけるジェンダーに基づく暴力」、「女子教育におけるジェンダーの不平等」、「児童婚や早婚」などの仏教社会の不平等な現実を列挙。その背景として、仏教指導者による適切な教育がなされていないことから生まれる偏見や女性差別を指摘しました。
その上で、上座部仏教も大乗仏教も、人々に喜びを与え苦からの解放を願う、「慈悲」の実践を説いており、男性も女性もみな、「仏性」をもっており、誰もが仏になることができること。女性も悟りに必要な智慧、洞察力、慈悲を得る可能性を男性と同じように持っていることを結論として強調しました。
卒林後、オトシさんは、早速、バングラデシュ初の女性僧侶であるビクフニ・ゴータミ(ルナ・バルア)に出会い、インタビューをする機会を得ました。インタビューにおいて、尼僧は、「生きとし生けるものには、必ず仏性がある。だから、女性も仏になることができる。女性にも男性と同じ権利があるのです」と主張。さらに、女性仏教徒が自由で幸せな人生を送り、社会で活躍するためには、適切な仏教教育と訓練が必要であることを述べました。
ゴータミ師からインスピレーションを受けたオトシさんは、早速、立正佼成会バングラデシュ教会のチッタゴン支部で、 TOT、Training of Trainers、(トレーナーのトレーニング)の実施に向けて活動を開始。まずは、法華経や仏教における平等の教えを伝えるためのセミナーの開催を目指しています。将来的には、チッタゴンからはじめ、バングラデシュ全域に広げていく予定です。
オトシさんは胸に秘めた熱い思いを次のように語りました。「私は、仏教社会における男女平等を実現するために、バングラデシュでブッダの本当の教えを広めたいです。そうすれば、人々の心を変えることができ、社会における平等意識を高め、女性のもつ能力を最大限に発揮することができます。そして、バングラデシュのあらゆる課題を克服することができると信じています。」